Tシャツが着られるようになってから約100年。
今やカルチャーとなったTシャツはどのように生まれどのように育ってきたのでしょうか。

■マーロン・ブランド(Marlon Brando)の「 欲望という名の電車(A Streetcar Named Desire)」(1951年)

Tシャツをアンダーウェアとしてでなく、
ファッションとして1枚で着るのが爆発的に広まるきっかけとなったのが、
映画「 欲望という名の電車(A Streetcar Named Desire)」です。
スタンリー役のマーロン・ブランド(Marlon Brando)はTシャツ1枚姿で登場し、
その姿が刺激的であったため、Tシャツ人気に火をつけました。
ここでのTシャツはまだまだワイルドでマスキュリンです。

■シャネル(Chanel)のデザイナー、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld) がツイードジャケットにTシャツを組み合わせる(1990年代)

その40年後、シャネル(Chanel)のデザイナー、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)は、
白Tシャツの上にシャネルのシンボルであるツイードジャケットを着るスタイルを発表し、
ハイファッションとTシャツを同列で扱いました。

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マーロン・ブランドのTシャツ姿が強烈な印象を与えた1950年代、
シャネルのコレクションにTシャツが加わった1990年代、
これらの以前、以後、Tシャツには一体どのようなことが起きていたのでしょう?

■肌着としてのTシャツの登場(1900年頃)

1800年代、欧米で下着と言えばフランネル(起毛したウール)製のオールインワンで、
「ユニオンスーツ」と呼ばれていました。

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その中、ボタンなしで頭からかぶることができる伸びる素材の下着が登場します。

米ウィスコンシン州のクーパーアンダーウェア社(Cooper Underwear Company)は1904年、
「No safety pins — no buttons — no needle — no thread」
(独身男性でも-裁縫のできる妻がいなくても-簡単に着られる)を宣伝文句に
「Bachelor Undershirts(バチェラーアンダーシャツ)」を勢力的に売り出しました。

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※右側の黒っぽいシャツがバチェラーアンダーシャツ

程なくして、米海軍は、この人気のシャツが体を動かしやすく、洗うのも簡単、ということに着目し、
海兵隊員の服装につき、
制服の下にはボタンなしのシャツ(つまり上記のようなシャツ)を着るように、という規定を加えます。

the (1905) Uniform Regulations of the United States Navy

UNDERSHIRTS.
For all enlisted men: Heavy: To be knitted of wool and cotton, in
such proportions as to prevent shrinkage, and to be bleached white;
elastic collarette on neck opening, with no buttons; long sleeves.
Light: to be of same material and description as heavy undershirt,
except that the yarns shall be sufficiently light to make the garment
about one-half the weight of the heavy undershirt. Sleeves not to
come below the elbow and to be so made that they will not rl creep.” 1
Cotton undershirts of identical pattern maybe worn in warm climates,
at the discretion of the commanding officer.

■「T-shirt(Tシャツ)」という呼び方の広まり(1920年代頃)

F・スコット・フィッツジェラルド(Francis Scott Key Fitzgerald)が
若き20代前半に書いた作品「楽園のこちら側(This Side of Paradise)」では、

学生の主人公エイモリー・ブレインが
「Tシャツ」を鞄に詰め、寄宿学校に持っていきます。
文学史上初めての「Tシャツ」の語の使用です。

“Amory, provided with ‘six suits summer underwear … one sweater or T shirt..’,
set out for New England, the land of schools.”

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また、1920年から辞書「Merriam-Webster’s Dictionary」にも
Tシャツという単語が載るようになりました。
: a collarless short-sleeved or sleeveless usually cotton undershirt

■衣服としてのTシャツの登場(1930年代頃)

1920年代の終盤にかけては、労働者の間では
Tシャツを衣服として着るのが一般的となってきていました。

1932年、南カリフォルニア大学はジョッキーインターナショナル社(Jockey International Inc)に依頼し、
アメフト選手のため、プレー用のジャージーの下に着る軽くて動きやすいTシャツを作らせます。
すると学生の間でこれを普段着として着るのが大人気となり、盗む者まで現れます。

大学はとうとう、“Property of USC”「南カリフォルニア大学のもの」というプリントを始めました。
Tシャツが衣服として着られるようになり、また、Tシャツにロゴや図柄をプリントするようになった先駆けです。

1920年代から1940年代にかけては丁度、人々のファッションが徐々にカジュアルになっていった時期です。

例えば、フランス人のテニスプレーヤーのレネ・ラコステ(René Lacoste)は、
1933年にはワニのマークの入ったポロシャツをを広めます。

このような中、米百貨店のシアーズは1938年、
Tシャツを、「”GOB”-STYLE ALL PURPOSE SHIRT」(水兵スタイルのオールマイティなシャツ)、
「”It’s an undershirt. It’s an overshirt.”」(下着にもなり衣服としても着られる)
と謳って販売しました。

既に1930年代の終わりごろには全米の大学生・高校生の間で
Tシャツをアウターとして着るのが広まっていました。

■第二次世界大戦下のTシャツ(1940年代頃)

直接の戦火をほぼ浴びることの無かったアメリカでも、
一部生活用品の不足や、愛国的な感情の高まりなど、
市民は戦争の影響を何らか受けていました。

グラフィックTシャツが飛躍したのが実はこの時期です。

戦意を高揚させるためには映画が効果的であった背景もあり、
この時代はハリウッドの黄金期に重なります。

1939年、映画「オズの魔法使い」では初めて映画プロモーション用のTシャツを売り出しました。
「Oz」という文字を緑色のTシャツにプリントしたものです。

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フォトジャーナリズム雑誌「Life」の1942年7月13日号(太平洋戦争真っただ中)の表紙には、
陸軍航空隊の砲撃訓練生が訓練所のチームTシャツを着ている姿が載っています。

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Tシャツはこの時期、軍隊で士気を高めるもの、
チームの結束を強めるもの、として利用されたのです。

■Tシャツ人気とグラフィックTシャツの広まり(1950年代頃)

戦後、多くの軍人たちが家に戻ると、
軍で来ていたTシャツを普段着に使うようになり、
Tシャツの着用が一気に広まりました。

Tシャツにはメッセージやグラフィックを加えることができる、
という点にも多くの人々が注目し始めます。

1948年、ニューヨーク州知事のトマス・E・デューイ(Thomas E. Dewey)は、
共和党の大統領候補となった際、「Dew-It with Dewey(デューイと変えて行こう)」というスローガンをTシャツにプリントしました。

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また、フロリダ州マイアミのTシャツメーカーTropix Togsは、
ミッキーマウスの他、様々なポップカルチャーのアイコンやスローガンを
Tシャツに印刷して販売します。

そしてこの頃、前述の通り、マーロン・ブランドなどのハリウッドスター達が
Tシャツを「格好良いもの」に押し上げました。

「理由なき反抗(Rebel Without a Cause)」のジェームズ・ディーン(James Dean)

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Tシャツ姿のブリジッド・バルドー(1957年)

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白洲次郎はサンフランシスコ講和会議に向かう飛行機にTシャツとジーンズで乗り込んだと言われますが、
それは「 欲望という名の電車(A Streetcar Named Desire)」の公開と同じ年の出来事でした。

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日本では進駐軍の兵士たちがTシャツを私服としてチノパン・スニーカーと共に
着ており、VANを設立した石津謙介氏は「僕の目に一番格好よく映った」と言っています。

石津氏はこれに基づき1953年、VANを設立し、Tシャツを作りはじめました。

■自由、ロック、アートの象徴としてのTシャツ(1960~1970年代頃)

Tシャツのプリントには水性インクが使われていましたが、
1959年、プラスティゾルインクが開発されます。
その他の技術の向上ともあわせ、
Tシャツ上のグラフィックの多様な表現や大量印刷が可能となりました。

このような技術的背景と、ロックやヒッピーといった社会的背景があわさり、
Tシャツは自由、反発、愛、平和、ロック、アートの象徴となりました。

有名どころのグラフィックTシャツのデザインとしては以下のようなものがあります。

◇チェ・ゲバラをモチーフとしたTシャツ

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1960年代後半頃から、革命家として若者の憧れの対象となったチェ・ゲバラは
Tシャツにもよくプリントされ、今でもそれは続いています。

*上記はアンディ・ウォーホルの作品

◇スマイリーフェイス

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ハーベイ・ボール(Harvey Ball)が最初にデザインしたのち、1970年代には世界規模で大ブームとなりました。

◇ローリングストーンズ

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◇Woodstockでのタイ・ダイ(Tie Dye、絞り染)Tシャツ

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タイ・ダイ(絞り染)はインド、日本、ジャマイカ、アフリカなどで歴史的に使われてきた染めの手法ですが、
タイ・ダイTシャツはヒッピーたちが平和・愛を表現する象徴として広まりました。

◇I❤NY

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1970年代のニューヨークは非常に荒れており、観光客の評判はがた落ちの状態でした。
その中、ニューヨーク市が依頼しMilton GlaseがデザインしたのがこのI❤NYです。
このデザインは大人気となり、
コピー品のTシャツがこれまで最も多く出回っているデザインとも言われます。

■ブランドアイコンとしてのTシャツ、ストリートウェアとしてのTシャツ(1980~1990年代頃)

Tシャツはファッションアイテムとしての地位を確立し、
メンズ、レディースともに、日々の着こなしに欠かせない存在となりました。

1980年代から90年代になると、大手ブランドがこぞってロゴTシャツを販売します。
Guess、カルバン・クライン、ベネトン、GAP等のアパレルブランドの他、
ナイキ、アディダス、等のスポーツブランド、
コカ・コーラ、MTV、ハードロックカフェ等もこれに加わりました。

Tシャツやファッションにのちのち大きく影響を与えた1990年代の大きな流れとしてはずせないのが、
ストリートウェアです。

ロサンゼルスのサーフカルチャーから、80年代にStussyが生まれ、
90年代には、カリフォルニアのライフスタイルブランドとして全米中に広まりました。

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Stussyで働きつつ、自らセレクトショップ「Union NYC」のオーナーでもあった
ジェームス・ジェビアがスケードボードのセレクトショップとして立ち上げたのが
Supremeです。
赤いロゴの入ったオリジナルTシャツは今再び人気です。

ヒップホップ界ではEminem(エミネム)がオーバーサイズのTシャツを着、
ヒップホップファッションが一部で盛り上がりました。

日本で「裏原」のストリートスタイルが盛り上がったのもこの頃です。

他方、Tシャツの形や着こなしも様々なものとなります。

前述の通り、ハイファッションとTシャツを組み合わせることも徐々に広まり、
レディースでは、とてもタイトで短いTシャツ(チビTとも)が流行します。

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■Tシャツの2極化、Tシャツを着て仕事をする時代に(2000年代~)

GAP等に始まったSPA(アパレルメーカーが直接店舗を持って消費者に売る形態)企業は
2000年代になると隆盛を極め、
その中、機能性製品を追及したユニクロ、
トレンドを追いかけるH&M、FOREVER21、ZARAなどのファストファッションブランドが
低価格のTシャツを大量に販売するようになります。

他方、ラグジュアリーブランドは
各ブランドの世界観を込め、1枚数万円~10万円以上などの高価格帯のTシャツを
発表するようになりました。

2001年、Dior

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2013年、Givenchy

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2014年、Giorgio Armani

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2014年、Versace

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2017年、Gucci

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2018年、Giorgio Armani

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高級ブランドのファッションショーで過去に披露されてきた服は
実用的でないものも多かった中、
新しいデザイナーたちはストリートファッションブランドや
ヨガブランドのデザイン性や美学を取り入れ、
新たな視点でランウェイを組みなおしています。

着心地の良さやライフスタイルの充実を求め、
エフォートレス(effortless)、アスレジャー(athleisure)などのキーワードが
ブームとなっています。

また、ファストファッションの反動としてサステナビリティへの関心の高まりや、
60年代、70年代、80年代、90年代、と過去のファッショントレンドを繰り返す流れもあり、
ヴィンテージ(古着)Tシャツの人気が高まりました。
Tシャツのコレクターも増え、希少なTシャツの中には数十万円で取引されるものもあります。

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Tシャツのもう1つの大きな流れとしては、
ITの進化に伴う仕事の仕方の変化により、
仕事着になったことが挙げられます。

Steve Jobs

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1980年代からシリコンバレーで始まったビジネスカジュアルは当初は
カーキパンツにボタンダウンシャツをあわせるという形で始まりましたが、
先端の業界ではTシャツは当然、
さらにはヨガパンツを着て自宅で仕事をするのが普通となり、
ビジネスカジュアルという言葉すら最早古いものとなっています。

 

Larry Page

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Elon Musk

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Tシャツが登場して100年以上。
Tシャツを、下着を着ているようでみっともない、等と言うのは
化石扱いされる時代となりました。

Pharrell Williams

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Cara Delevingne

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Alexa Chung

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Michelle Obama

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Prince George

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皆さんはTシャツをどのように取り入れられていますか?


 

 

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